生理のことを親しい人や家族に対してさえも気軽には口にすることが
できない、百年近く前の女性たちの悩みの深刻さは・・・・・・。
そのせいと決めつけることはできませんが、
当時の女性雑誌の読者投稿のコーナーを見ると、
煩悶する読者からの生理に関する相談が多く掲載されています。
1917(大正6)年『婦人之友』11月号の「産婦人科問答」では、
25歳の女性が年に1、2回しか生理が来ないため、
医師の診断を受け通経剤を服用しているが、
それが体へ悪影響を及ぼさないかについて相談しています。
通経剤というのは生理を促すための薬です。
この質問に対して医師は、
「血液を補う目的の薬で、ために通経し得るならば、そのまま服薬を続けてよし」
と回答しています。
通経剤は1930年代頃までの女性雑誌の広告ではたくさん目にします。
「月やくおろし」「特殊流経剤」「安全に流下」などと書かれていて、
雑誌の号によっては生理用品の広告よりも数が多い場合もあります。
実はこの通経剤、生理不順を整えることとは別の効果を期待して
使われることもあったようです。
生理が来ない、何ヶ月も止まっているという場合、
原因は生理不順だけではなく妊娠した場合も考えられます。
当時、避妊具は販売されていましたが、主に性病予防が目的のため
一般家庭に普及するまでには至っていません。
そのような状況のもと
「2、3ヶ月の滞り、又は長くつきやくなく、血のかたまりなど」を「快治す」る
とか、4、5ヶ月生理が止まっていても効果があるとした薬で、しかも
それが密かに入手できるとあれば中絶の効果を期待して試みる人もいたのでしょう。
毎月丸:1930(昭和5)年 主婦之友10月号より
強経球:1929(昭和4)年 婦人倶楽部11月号より
人知れず入手できる通経剤販売業者の中には悪徳業者もあり、有害なものや
規定量以上の薬物を混入したために中毒死を起こした例や、
広告をみて問い合わせをした人には、パンフレットを送るだけでなく
外交員が出向いて来て、効果のない薬を高値で売りつけ何度も買わせたり、
購入者が一向に効果がないことを責めると、
「あなたのは妊娠でしょう手前共の薬は通経剤で堕胎剤ではありません。
あなたは○○の目的で薬を買ったのですか」と
開き直って脅されることもあったそうです。(※1)
このようなことが当時どれほど問題視されていたのかは分かりませんが、
女性雑誌では通経剤への注意や服用しないようにとの記事もみられます。
1933(昭和8)年の主婦之友6月号の付録で
女性のための健康情報を網羅した『婦人衛生宝典』では、
「いわゆる「通経剤」は謎」の中で通経剤を否定しています。
※参考書籍等
※1、『避妊の常識』野尻与顕(ホーム出版部、1930)
(国立国会図書館デジタルコレクション、コマ番号43〜46)
『「家族計画」への道』荻野美穂(岩波書店、2008)(P92〜98)
『オトメの身体』川村邦光(紀伊國屋書店、1994)(P74〜84)
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